「サイレンス」短評

現代は「HUSH」。NETFILXで配信されていたので観た。

日本公開はされていないようで、予告編も見つけることができなかった。

森のなかの一軒家に一人で住む聾唖の女性が、正体不明の殺人鬼に襲われるという話。ほんとにそれだけの話で、非常にシンプルな映画なのだが、これがとても面白かった。

今作「サイレンス」は視覚ではなく聴覚が全く無いという設定で、しかも基本的に家の外にうろうろする≪殺人鬼1≫対≪聾唖の美女1≫というタイマン勝負なので、家のなかの女性の方からすると殺人鬼の動向は窓を覗いて全て目視で確認するしかない。足音だったり、ドアを開ける音で状況を確認することができないのだ。観客としても同条件で、カメラの映し出す映像でしか状況を確認できない。襲われる側が圧倒的に不利なのだ。襲われる側はいつでも不利だが、今作ではもう絶望的に不利なのである。殺人鬼が家の中に入ってきても気づくことができない。いったいどうやって身を守るんだろう?

まあでも、こういう設定の部分までは面白そうだけど、実際観てみると観客の「この状況でいったいどうやって身を守るんだろう?」っていう問いに対する答えがあまりにもチープでこけおどしだなっていう映画というのが99パーセントなんだけど、本作は違った。設定を活かしながら充実感のある作品になっている。殺人鬼側としてもこの状況下ですぐ殺してしまうのはあまりにもつまらないなという感じで「もう少し怖がらせてから殺そう」っていう事をどうも決めているらしい。どうやらすぐには殺されないらしいが、何らかの対抗策を見つけないと遅かれ早かれ殺される。で、どうするかというと、ここからはなんていうか定石の展開なのだ。逃げようとする、失敗する、助けを呼ぼうとする失敗する、逃げても捕まる、助けも来ない、もはやアイツをなんとかして殺すしかないな、という。

つまりここからは殺し合い、というかどちらかが相手を殺したら映画が終わっちゃうから「痛めつけ合い」みたいな感じになってて、この展開もデジャビュ感があって心地良い。痛!!!っていう画面が続くからそういうのが苦手な人は注意して欲しい。

でもそのすべてが一瞬も途切れることのない緊張感に満たされていて、ある意味「泥臭い」ホラーなんだけど、やっぱ基本は大事だねえってつくづく思う。

それからさっき「痛めつけ合い」って言ったけども、人の命を奪うって大変な事だから、当然抵抗もされるし、もう最後は取っ組み合いになる。それでも圧倒的に不利な状況でもキャーキャー叫んでないで闘う主人公が好きだ。ホラーってとことん理不尽だ。殺人鬼って何様ですかと思う。理不尽に徹底的に抗うということこそホラー映画的な快楽だと僕は思っている。