「1408号室」短評

f:id:annkochan2:20160905225031j:plain

ジョン・キューザック主演のスティーブン・キング原作の短編の映画化作品。

ホテルの一室が強烈な「悪意」を持っていて、一時間以内に漏れなく宿泊者を殺してしまうという部屋に泊まった作家の恐怖を描いた作品。

どんな恐怖かと言うと、大音量でラジオが鳴ったり、熱湯が出たり、壁から血が滲みでたり、こんなのは序の口で、最終的には大災害が部屋で起きたみたいにはちゃめちゃになる(という幻覚を見せられる)。

結論から言うと作品の前半は何が起こるのかわからなくて、結構怖いんだけど、後半に進むにつれてただ延々と幻覚映像を見せられ続ける感じで芸が無くてつまらない。悪意を持っているのが1408号室というモノ自体なのは作品から読み取るに明らかで、このアイデア自体は面白いと思う。しかし、何故部屋がそこまでの悪意を持つまでに至ったのなどの詳細はイマイチ描かれないのがストーリーとして浅く脆い。

キング作品の悪意というのは、少なくともこういう感じでは無い。キング作品の恐怖はもっと明確な「悪意」によるもので、それは自分が来るずっと以前からそこで待ち受けている。その邪悪さに複雑なパーソナリティを持った人間(達)が最終的に対決するのが面白いのだ。対して、今作「1408号室」では、ジョン・キューザックは人生なめきった感じのおちゃらけ演技で、つまり、いつものジョン・キューザックで、これは明らかにミスキャスト。結果、ホラー版のジュマンジとかナイトミュージアムみたいな感じになってしまっている。

まあでも、キングの原作の世界観どおりに作れば名作なりうるかというと疑問なのは「シャイニング」を例を挙げれば充分だ。キューブリック版はキングを激怒させたらしいが映画史に残る傑作なわけで。

やはり、今作は全体的に中途半端な感じなのが良くない。キング原作なら「ドリームキャッチャー」くらい世界観を再現して欲しかった。ドリームキャッチャーがどうキングの世界観を再現しているのかと聞かれると上手く説明できないが、あの感じが自分の中でのキングっぽい感じ。あの安っぽい子どもっぽさ。子どもに戻れば物音ひとつが、全てが怖くなるわけで、「it」や「ドリームキャッチャー」では大人達は大きくなった子どもとして描かれる。そういう観点から見ると本作「1408号室」はただ、幻覚を見て怖がってるおっさんの話に過ぎない。やや残念である。

 

「ベル&セバスチャン」短評

 




2015年公開の作品。
時代設定は1943年、ナチスドイツ占領下のフランス、アルプス地方。

血の繋がっていないおじいさんに育てられた少年セバスチャンは、家畜や人間を襲う「野獣」として、村人達から恐れられ、嫌われていた野犬ベル(グレートピレニーズ犬)と出会う。グレート・ピレニーズというのは本当にデカくて、熊くらいの大きさがある。でも、大型犬特有の人懐こい優しい目をしていて、観ているとどう見てもこいつ家畜襲ったりしないだろというツッコミが入る。基本は少年とデカいワンコの友情を描いた作品で、犬が好きならそれだけで楽しめると思う。 

この作品はそれ以外にも見所がある。一つは舞台となる広大なアルプスの大自然。空撮が使われ、単純に見ていてとても美しい。もう一つはナチ占領下の生活が描かれていること。アルプスを越えればスイスに亡命できるので、密出国しようとするユダヤ人と捕まえようとするナチ将校、さらにその間で揺れるフランス人の人間ドラマが描かれる。

ただ、全体的にドラマとして見るとかなりマイルドで、苛烈な暴力や死の描写は出てこない。文科省推薦的な、推薦図書的な「綺麗」な感じが強い。登場人物のキャラクター性も薄く、強いドラマ性が無いこともあってやや退屈な感じは否めないが、100分くらいの短い作品であることもあって、子どもと一緒に見るのにはお勧めできる作品だ。

「ザ・ライト -エクソシストの真実-」短評

2011年公開の悪魔払いモノ。

アメリカの神学生が「悪魔払い講習」を受けるためにローマに2ヶ月間の留学に行く。で、アンソニー・ホプキンス演じる悪魔払い師のもとで助手を務めることになる、という話。

悪魔払い師がアンソニー・ホプキンスで(この時点でかなり怖い)、しかも最終的に悪魔が彼に乗り移ってしまうという空想できるうちで最も怖い事態が起きてしまうという作品。

悪魔をホプキンスから追い出すために、椅子に縛りつけるんだけど、どう見ても完全にレクター博士。拘束された姿がこれほどしっくりくる俳優も他にいないのではないかと思う。

正直、悪魔よりシラフのホプキンスの方が怖い。ストーリー的にややあっさり目ではあるし、怖さも控えめだが、ホプキンスの出番が多く、見て損は無し。

「エスター」短評

 f:id:annkochan2:20160830235931j:image

2009年公開の作品かな、NETFLIXで視聴した。

ロシア系の少女を養子にもらった夫婦、最初は賢く完璧な子供に思えたが、やがて少女は奇妙な行動をするようになる。

子供が災厄をもたらす映画というのは「オーメン」を代表としていくつもあるが、その多くが悪魔系の理由に起因するもので、今作もそんなところかなと思ってみていたら綺麗に裏切られた。

どう裏切られるのかはネタバレになるので言わないけど、ハッと気付いた時はかなりゾッとすると思う。

シャマランの「ヴィジット」はある程度予測ができたけど、今作は正直予測出来ないエンディングだった。え?知らなかった、そうだったのかというのを気付いた時って結構ゾッとする。この前も蕎麦屋でおろしせいろを食べて会計をしようとしたら、店主が「もう支払い済ですよ」と。

え?

隣で一人飲んでいた知らないおじさんが自分達の分も払ってくれたらしい。食事中一言も話をしていないのに。申し訳ないが、それを知った時は寒くなるような恐怖感を感じてしまった。

話がそれたが、よくできたエンディング以外にもストーリー展開自体が優れた作品だ。やや遅いテンポであるもののじっくりと破綻なく事態の真相へと観客を連れて行ってくれる。展開自体は古典的ホラーなので年配層にも受け入れられやすい良作ではないだろうか。

 

「サイレンス」短評

現代は「HUSH」。NETFILXで配信されていたので観た。

日本公開はされていないようで、予告編も見つけることができなかった。

森のなかの一軒家に一人で住む聾唖の女性が、正体不明の殺人鬼に襲われるという話。ほんとにそれだけの話で、非常にシンプルな映画なのだが、これがとても面白かった。

今作「サイレンス」は視覚ではなく聴覚が全く無いという設定で、しかも基本的に家の外にうろうろする≪殺人鬼1≫対≪聾唖の美女1≫というタイマン勝負なので、家のなかの女性の方からすると殺人鬼の動向は窓を覗いて全て目視で確認するしかない。足音だったり、ドアを開ける音で状況を確認することができないのだ。観客としても同条件で、カメラの映し出す映像でしか状況を確認できない。襲われる側が圧倒的に不利なのだ。襲われる側はいつでも不利だが、今作ではもう絶望的に不利なのである。殺人鬼が家の中に入ってきても気づくことができない。いったいどうやって身を守るんだろう?

まあでも、こういう設定の部分までは面白そうだけど、実際観てみると観客の「この状況でいったいどうやって身を守るんだろう?」っていう問いに対する答えがあまりにもチープでこけおどしだなっていう映画というのが99パーセントなんだけど、本作は違った。設定を活かしながら充実感のある作品になっている。殺人鬼側としてもこの状況下ですぐ殺してしまうのはあまりにもつまらないなという感じで「もう少し怖がらせてから殺そう」っていう事をどうも決めているらしい。どうやらすぐには殺されないらしいが、何らかの対抗策を見つけないと遅かれ早かれ殺される。で、どうするかというと、ここからはなんていうか定石の展開なのだ。逃げようとする、失敗する、助けを呼ぼうとする失敗する、逃げても捕まる、助けも来ない、もはやアイツをなんとかして殺すしかないな、という。

つまりここからは殺し合い、というかどちらかが相手を殺したら映画が終わっちゃうから「痛めつけ合い」みたいな感じになってて、この展開もデジャビュ感があって心地良い。痛!!!っていう画面が続くからそういうのが苦手な人は注意して欲しい。

でもそのすべてが一瞬も途切れることのない緊張感に満たされていて、ある意味「泥臭い」ホラーなんだけど、やっぱ基本は大事だねえってつくづく思う。

それからさっき「痛めつけ合い」って言ったけども、人の命を奪うって大変な事だから、当然抵抗もされるし、もう最後は取っ組み合いになる。それでも圧倒的に不利な状況でもキャーキャー叫んでないで闘う主人公が好きだ。ホラーってとことん理不尽だ。殺人鬼って何様ですかと思う。理不尽に徹底的に抗うということこそホラー映画的な快楽だと僕は思っている。

 

「フルートベール駅で」短評


『フルートベール駅で』予告編

2014年3月公開の作品。

当時、確か有楽町のヒューマントラストシネマでかかっていて、見ようと思っていたらそのまま未見のまま今に至った。

22歳の黒人青年オスカーが完全に無抵抗な状態(うつ伏せに寝かされ後手に手錠をかけられている)で、警官に射殺された2009年の元日に実際にあった事件を描いた作品。この事件は駅の構内で起きていたために、多くの人に目撃されて、撮影された。

本作の冒頭も事件を目撃していた一般市民が撮ったビデオの映像で始まる。黒人数人を座らせて警官は立っている。一発の銃声が聞こえたところで画面は暗転する。

この作品の大部分を占めるのは、事件の前日、つまり警官に射殺されたオスカーの大晦日の一日だ。オスカーには幼い娘とその母で未婚の妻がいる。過去に浮気をしたこと、刑務所に何度も服役していたこと、遅刻が続いてスーパーをクビになったことなど問題は多々あるが、それでも必死に善く生きようとしている。善い父親、善い夫であろうとしている。

映画を観ればわかるんだけど、オスカー役の俳優の善い人オーラが強くて、日本で言うと何だろう、山本太郎みたいな感じの外見のお兄さんなのである。基本マザコン気質で、まわりを楽しませるのが好きで、天然な感じ。

オスカーはスーパーを二週間前にクビになって金は全然無い。それでももう刑務所に行って家族を悲しませたくないから、売ればお金が入るマリファナの在庫も捨てて、娘のためにカタギの仕事をしようと必死にもがいている。ほんとささやかな貧しい生活なんだけど、若い父、母、娘の三人で生きていく様子は、どうにかにして幸せになろうと必死で、この様子は世界中どの家族も美しいと思った。

大晦日はオスカーの母の誕生日で、祖母や叔父さん達と過ごす。ただ愛に満ちていて、シチューをみんなで食べるだけなんだけど、ささやかで美しいシーンになっている。

この後、オスカーは妻と友達達とサンフランシスコでの新年の花火を観に電車で出かける。娘は寂しがって行かないでというんだけど、オスカーは答える。明日はとても楽しいところに連れていくよ。

トイザらス?」「いや、もっと楽しいところだよ。チャッキーチーズに行くんだよ。たくさんゲームをやってピザを食べて。」

娘は喜んでいる。このチャッキーチーズってのがなんのことかよくわからなくて、ググったら子供向けのゲーセン付きのピザ屋みたいところらしく、アメリカでは人気らしい。25ドルくらいの入場料で、ピザを食べて、ゲーム券をもらってたくさんゲームをやって、ゲームの得点に応じて子供騙しのおもちゃがもらえる。そんなところらしい。これは楽しい。30歳手前の自分も行きたいし、子供の頃だったら天国みたいな場所だろうな、ほんとに。

そうしてオスカーは娘に歯磨きをさせて、寝かしつけ、新年の花火を見にいく。電車の中は新年のお祝いに向かう人でにぎわっている。電車は遅れて、花火がどうも見えなさそうだ、ということで、見知らぬ乗客同士、車内でカウントダウンをして新年を祝う。

それから、しばらく楽しんだのちに、帰路に着くんだけど、車内で喧嘩に巻き込まれて、電車は止まる。警官がやってきて、オスカーたちはその場を離れようとするが、拘束され、そして冒頭のシーンに繋がっていく。

なんだか、ストーリー展開の説明ばかりになってしまったけど、この作品は実際にあった事件を題材にしていながら、それも人種問題という重いテーマを題材にしていながら、いわゆる「社会派映画」的なお説教くさい作品にはなっていない。作品の中核にあるのは、家族、貧困、人生の再生といった普遍的な―人種問題の手前にあるもっと根源的なテーマだ。それを丁寧にリアリスティックに描いているから多くの人に共感を呼ぶのだと思う。この点はリー・ダニエルズの『プレシャス』に通じるところがあるように思う。黒人のコミュニティを抑圧とそのカウンターの歴史として外側の視点で描くのではなく、内側の黒人の日常を描いた作品というのは少ないからだ。

ささやかな幸せを願う一人の青年の日常を奪ったのは、それも無抵抗の動物を殺すように命を奪ったのは、人種差別だと私は信じたくない。テイザー銃と拳銃を間違えたということで、殺人罪に問われた警官は1年未満の刑期で釈放されたとのことだが、その間違え自体も信じたくないし、不当に軽い量刑(と私には思える)も信じたくない。ただ、たった一人の人間の人生の重みを感じ続ける。

6/1〜8/31に観た映画

6/1「ドラックストアカウボーイ」55点

6/1「サルバドル/遥かなる日々」75点

6/1「偽りなき者」100点

6/2「暗くなるまでこの恋を」70点

6/4「レ・ミゼラブル」80点

6/4「ブレーキダウン」65点

6/6「イップマン 最終章」70点

6/6「セックスと嘘とビデオテープ」85点

6/9「アデルの恋の物語」75点

6/12「サムライ」70点

6/12「アメリカンサイコ」90点

6/14「ドアインザフロア」50点

6/15「読書する女」80点

6/22「寒い国から帰ってきたスパイ」70点

6/22「麗しのサブリナ」75点

6/22「コレクター」95点

6/28「白い嵐」75点

6/28「真昼の死闘」90点

6/28「バーニングブライト」30点

6/29「ある秘密」85点

7/2「恋はデジャ・ヴ」90点

7/2「やつらを高く吊るせ」70点

7/3「アルカトラズからの脱出」90点

7/4「それでも夜はあける」80点

7/7「クライングゲーム」90点

7/16「ファインディングニモ」80点

7/16「チャーリーとチョコレート工場

7/16「頑張れベアーズ」90点

7/16「怒りの荒野」75点

7/17「私は生きていける」75点

7/17「わらの犬」80点

7/21「エイリアン」80点

7/21「エイリアン2」80点

7/21「狂っちゃいないぜ」90点

7/22「プレシャス」90点

7/23「ファーナス 決別の朝」70点

7/26「エンドオブホワイトハウス」65点

8/14「2ガンズ」65点

8/18「ウィークエンドはパリで」70点

8/18「アンノウン」65点

8/20「ベイマックス」80点

8/20「バードマン」80点

8/21「コンフィデンスマンある詐欺師の男」60点

8/24「エベレスト」65点

8/24「キングスマン」75点

8/25「スペル」90点

8/26「ヴィジット」65点

8/28「フルートベール駅で」90点

8/29「ギフト」80点

8/30「サイレンス」85点

8/30「エスター」80点